HOME > まだある。昭和食堂 > カンペキな「お子様ランチ」を求めて~第3回 日本橋三越の「お子様ランチ」~
12月14日のメニュー
by はつみ
前回の松坂屋「お子様ランチ」体験は、なんとも悲劇的な結果に終わってしまいました。 「『お子様ランチ』発祥の店」の元祖・正統・本格「お子様ランチ」のご飯までが「のりたまご飯」......。もはや「赤いご飯」の「お子様ランチ」には二度と出会えないかも知れない、「赤いご飯」にこだわる僕が間違っているのかも知れないと、絶望的な気分になったわけです。
が、前回の記事にある「松坂屋=『お子様ランチ』発祥の店」という記述について、読者のみなさまはなにか違和感を覚えませんでしたでしょうか?
ちょっと引用してみましょう。
「『お子様ランチ』という名称をはじめて使用したのが上野松坂屋だということは確かなようです。」
この一文、なんとなく歯切れの悪さのようなものを感じさせないでしょうか?
なんかこう、不祥事を起こした政治家のもってまわった弁明にも似た不明瞭さがないでしょうか?
そうなのです。上記の文章が示しているのは、「お子様ランチ」を初めてつくったのは松坂屋である、ということではありません。「お子様ランチ」という名称を初めて使用したのが松坂屋である、ということしか語られていないのです。
つまり、ここで突如、「名称」と「名称が示す物」との関係という、懐かしの「ニューアカデミズム」がやたらと得意としていたきわめて哲学的な問題が浮上するわけです。
つまり、松坂屋を「お子様ランチ」発祥の店とする説は、フーコーがいうところの「言葉と物」の問題で言えば、「言葉」に関する言及でしかなく、ソシュール の「シニフィアン(意味するもの)とシニフィエ(意味されるもの)」で言えば、「シニフィアン」の側面からのみの断定にすぎません。
つまり松坂屋の「お子様ランチ」は、名称、つまり「言葉」として、「シニフィアン」としては元祖ですが、それとは別に実体、つまり「物」としての、「シニフィエ」としての元祖が存在するわけです。
もってまわった前置きがダラダラと続いたのでいきなり結論を書きますが、ありとあらゆる資料や文献(wikipediaと今年春ごろの「週刊ポスト」)を 精査した結果、真の元祖「お子様ランチ」は、1930年、日本橋三越の食堂部主任・安藤太郎氏が考案した「御子様洋食」(当時30銭)であることが判明し ました。
名称こそ「お子様ランチ」ではありませんが、この「お子様洋食」こそ、旗を立てた型抜きご飯など、後にお子さまランチの定型となるスタイルをつくった歴史的メニューなのです。
当時のメニュー内容は......
・型抜きご飯
・コロッケ
・ハム
・ナポリタン
・サンドイッチ
だったそうで、ご飯とサンドイッチが両方ついてくるのがユニークです。
歴史の舞台となった日本橋三越の大食堂は、開店から100年の時を経た現在も営業中。今は新館に移り、「ランドマーク」という店名となっていますが、もちろん「お子様ランチ」(現在は「お子様洋食」ではなく、「お子様ランチ」となっています)は健在。
で、行ってきました。
これが真の元祖「お子様ランチ」です!
言葉に詰まってしまうほどの美しさ!
ついつい「赤い蒸気機関車」の細部などを眺めたくなってしまうでしょうが、まずはもっとも重要な個所をチェックしてください。
夢にまで見た「赤いご飯」! チキンライスです!
「だけど、半分は白いじゃないか」と首を傾げた人も多いと思いますが、これは趣向を凝らした「演出」なのです。
1930年の誕生当時から、この半分赤、半分白のご飯は「お子様洋食」のシンボルで、「富士山ライス」と呼ばれていました。山頂に雪を頂いた「赤富士」を模したもの。もはやファインアートです。日本画の画題に料理で挑戦した「食べられる造形芸術」なのです。
しかも......
ちょっと写真ではわかりにくいんですが、この「赤い蒸気機関車」、エントツから煙を吐き出しています(内部にドライアイスが仕込んであります)。子ども心を刺激しまくる素晴らしい演出です(大人が食べる際は死ぬほど恥ずかしい演出なのですが、希望すれば通常のお皿に盛って提供してくれます)。
しかし......
「やはり、これぞ元祖」とうなずいてしまうのは、細部の工夫の数々ではなく、料理そのもの、そして盛り付けの美しさです。パッとお皿の上を見た瞬間に、子ども心がウズウズしてしまうのです。全体に安定感というか、構成美のようなものがあり、「いい加減」な感じがみじんもありません。
ハンバーグ、 エビフライなどのメイン料理はもちろん、ポテトフライなどもすべて手づくり。「子どもがはじめて食べる洋食だから、あくまで本物の味を」と食材もレシピも 本格的なものを採用しているそうです。ただひとつ大人向けメニューと違うのは、「少し冷ましてから出す」ということ。これは、子どもが火傷をしないための 配慮なのだそうです(素晴らしい!)。また、随時変更されるメニューは、子どもたちに直接取材して決定されます。もちろん、オマケなどはついていません。 そういうものを必要としないだけの「貫禄」が備わっているのです。
試食をしながら思ったのは、断言はできませんが、幼児のころにこの「お子様ランチ」を食べていたら、たぶん大人になってからも覚えているんじゃないかなぁ、ということでした。
料理のクオリティはもちろん、ちょっとした工夫や演出、お店側の細かい配慮などは、なんらかの形で、ちゃんと小さな子どもにも伝わるような気がします。そして、それらは漠然とした楽しげな記憶となって、きちんと保存され続けるのではないでしょうか?
というわけで、3回にわたってお送りしてきました「カンペキな『お子様ランチ』を求めて」は、見事に「カンペキな『お子様ランチ』」を発見することができた今回にて終了いたします。
【店舗データ】
住所:東京都中央区日本橋室町1-4-1日本橋三越新館5F
電話:03-3241-3831
営業: 11:00~19:30(LO19:00)
休業日: 1/1
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