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あゝ思い出ごはん

誰の胸にもある忘れられない食事の思い出。
一つの料理とともに人生の大切な場面が蘇る。
あなたの思い出の一品と物語はなんですか?

2007年12月 3日 01:37 | 旅ごはん

在留18年、オレ流スペイン料理

画像スペイン在留18年。華やかなフラメンコや闘牛には背を向けて、キリスト教の「巡礼路」などカトリックの世界を撮り続けていた一人の写真家が1昨年帰国した。東京世田谷の池利文さん(写真)。厳しい取材の旅の途中で覚えたスペイン料理を自分流に味付けして今も楽しんでいる。

☆聖なる巡礼路を歩く
  池さんがスペインに渡ったのは50代の半ば。世界遺産に指定されている西部の古い都市、サラマンカで最初の2年間、言葉の習得に励んだ後、首都マドリッドで16年間。ビザの書き換えのためにたまに帰国する期間を除いては、重いカメラ機材を積んだ車を駆り、時には徒歩でスペイン中はおろか、イタリアなどヨーロッパ各地を訪ねた。主たるテーマはキリスト教関連のルポルタージュ写真である。

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 カトリックの国、スペインは多くの聖人を輩出し、聖なる巡礼地が多いが、一番大きな取材の旅だったのは、ピレネー山脈から全ヨーロッパ最大の巡礼地として有名な北部のサンチャゴ・デ・コンポステーラまで約800キロの徒歩の旅。強い日差しのもと、乾いた大地や険しい山地をよぎる苦難に満ちた26日間の巡礼路だった。このときの労作は、計画の発案者でもあった上智大学教授の門脇佳吉神父の「ことば」とともに写真集『スペイン巡礼讃歌―大地を潤す春雨のように』(春秋社、写真はその表紙)として1993年に出版された。

 イタリアの石造りの山岳都市、アッシジにも門脇神父とともに大型取材を敢行した。アッシジはイタリアの聖人で第2のキリストと呼ばれる聖フランシスコゆかりの聖地。修道院の小さな独房に20日間、修道士と生活をともにした。クリスチャン作家として著名な遠藤周作さんと加賀乙彦さんが寄稿してくれた文章とともに写真集『愛されるより愛することをーアッシジの聖フランシスコ』(学習研究社、1992年)として結実した。

☆商業写真から仏門へ
 池さんは元々は広告など商業写真のカメラマンだった。大学在学中、広告写真界の大御所、中村正也氏の助手として働き、しばらくスタジオ勤務のあと独立。広告、芸能、ファッションなど商業写真の第一線で活躍していたが「金のためなら何でもやる」仕事に嫌気がさした。あるとき舞い込んだ作家大岡昌平氏の代表作「レイテ戦記」の舞台再訪企画でフィリッピンへ同行取材した際、ルポルタージュ写真のすばらしさに目覚める。しかし、フリーカメラマンの仕事は不安定で、写真をやめようと思いつめ、もがき苦しんだあげく、縁あって高野山真言宗の総本山(和歌山)に入峰した。

 心機一転、仏門に入った池さんは、厳しい修業を重ねてついには頭を剃って得度した。真言密教の世界に没入して5年。僧名を持った写真家として撮影した写真集『空海の宇宙大伽藍』(学研)は、高い評価を得た。

 池さんは、高野山にいたころ、弘法大師が開いた「四国八十八ヶ所」のほとんどの遍路道を歩いている。その遍路道の先にスペインの巡礼の道があった。仏教の道からキリスト教の道へ。洋の東西の信仰の道を歩いた稀有な写真家ということになる。

☆聖地で覚えたスペイン料理
 その池さんのスペイン時代の「思い出ごはん」は、聖地サンチャゴ・デ・コンポステーラで出会った「メルルーサ・ア・ラ・ガジェガ」。日本語に訳せば「ガルシア風タラの煮物」とでもいう著名な魚料理である。

 フライパンにオリーブ油とすりおろしたにんにくを入れ、塩を振った生タラを軽く焼く。そこに水を足し、丸のままのジャガイモを2つほど加えて煮、ローレル(香草)を加えれば出来上がり。塩だけの薄味だが、スプーンの背中でジャガイモをつぶし、タラの身と混ぜあわせたところへパプリカを振りかけて食べると絶品だった。

 もう一品は「メネストラ」と呼ばれる野菜シチュー。チョリッソと呼ばれる豚の腸詰を小さく刻んでにんにくとバターで炒め、ブイヨンの味つけ、ほうれん草やインゲン豆などありあわせの野菜を入れて煮込む。これはピレネー山脈のホステルに冷え切った冬の夜遅く到着し、親切な宿の主人が手早く作ってくれた料理で、身も心も温まった思い出がある。

 「スペインの典型的な料理といえば、保守派の肉料理が多いが、この二つはエスニックな地方料理。スペインではどこでも食べられるが、日本ではどうかな? メルルーサの煮物は滞在中よく作り、あるときから自分流にアレンジして食べていた。どうやってだって? そりゃあ、決まっているでしょう!醤油をちょっとたらすとぐんと美味くなるんです」

  やっぱり日本人!イナセな細身のジーンズが今もよく似合う万年青年だが、白くなった口ひげがニヤリと笑った。

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