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あゝ思い出ごはん

誰の胸にもある忘れられない食事の思い出。
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2007年12月20日 16:48 | 家族ごはん

「ぎんぽう」って美味い魚、知ってるかい?

林田昭慶さん  今風に言えば、ちょいわるおやじ。昔は、ホモ・ルーデンス(遊び人間)と呼ばれたこともある。東京のファッション写真家、林田昭慶(てるよし)さん(写真)は趣味百般「男の隠れ家」の達人である。とりわけ食いしん坊話を始めたら汲めども尽きぬ泉のごとく、その薀蓄はとどまるところを知らない。

☆アイビーファン、幻の名著の写真集

 林田さんは山の手、青山生まれの青山育ち。大学を出てすぐフリーカメラマンになった。日本経済の高度成長時代が幕を開けた60年代初め。若者の間ではアメリカの名門大学生のファッションを取り入れた「アイビールック」が大人気で、林田さんはその波に乗った。

 ボタンダウンのシャツ、金ボタンのブレザーにチノパンという「アイビールック」。その仕掛け人は、服飾メーカー「VAN」の創始者で、1昨年、93歳で亡くなったファッションプロデューサーの石津謙介さん。林田さんは、この石津さんの下、ドル持ち出しもままならぬ時代のアメリカに渡り「アイビーリーグ」と呼ばれた名門8大学の写真を撮りまくった。

TAKE IVY

 1965年に発売されたこのときの写真集『TAKE IVY』(婦人画報社)は、アイビーファンのバイブルとして長く語り継がれていたが、昨年末、ファンの熱望で復刻版写真上=表紙)が出版された。41年ぶりの幻の名著復活はあっという間に完売、ネットオークションで高値取引されているほどの人気ぶりだという。

「ファッションとは衣食住、ライフスタイル全般のことである」。
こんな持論に基づく「TPO」の造語で知られる石津さんの薫陶を受けた林田さんは、徹底した趣味人としても知られる。スキューバダイビングは日本のはしり。自宅での薔薇作りや山椒の佃煮作りなど、やりだせば、とことん極めなければ気がすまない超の字のつく凝り性である。

☆鴨鍋おじさん

 料理究家で俳人の高木泉さんは長年の友人の一人。その著書『美しい日本の美味しいごはん』(アスキーコミュニケーションズ刊)は、季語を通して四季の料理を楽しむ写真エッセイ集だが、その如月(2月)の「凍解(いてどけ)」(冬の間凍っていた大地が春になって解けゆるむこと)の項に「鴨鍋は集まりの席にぴったりの献立。凍解けの頃、我が家では友人を呼んでの鴨鍋が恒例になっています。このとき活躍してくれるのが『鴨鍋おじさん』と呼ばれている男性で新橋の鴨専門店から胸肉やもも肉を買ってきてご自分ですいてくれるのです」とある。

 この「鴨鍋おじさん」が林田さん。「鴨鍋の基本は、酒の入った昆布出汁に鴨肉、京人参に山形産の芹を入れるだけ。芹がびっくりするほど食べられるよ」と舌なめずりする。林田さんは食通でもあった石津さんとよく食べ歩きをしたが、滋賀県の琵琶湖畔で一緒に本格的な青首の鴨の鍋を食べた記憶がある。

 ワイン遍歴も長く、自宅の地下にワインセラーまで作ってたどり着いたのはフランス・ブルゴーニュのピノ・ノワール(赤)とドイツのリースリング(白)。特にビンテージものにはこだわらないが、フランスの本場ボルドーへ行ったときはウィーンまで列車で移動しながら一ヶ月間、飲み歩いた。

☆天ぷらにされるために生まれてきた「ぎんぽう」

 歯切れのよい東京弁にエンジンがかかってきて突然飛び出したのが「ときに、"ぎんぽう"って魚、知ってるかい?」という話。首を振ると「これは煮ても焼いても食えないが、天ぷらにするとめっぽう美味いんだ」と目を細める。

 林田さんは戦時中、父と一緒に父の故郷、熊本に疎開していた。天草を望む八代海の干潟でよく獲れたのが「うつぼ」を平べったくしたような「ぎんぽう」。食通だった父は「これはぬるぬるしていて気味が悪いのでみんな肥料にしたりしてあまり食べないが、天ぷらにすると美味いんだぞ」と言って晩酌をしながらよく食べていた。中学3年だった昭義少年もお相伴をした。

 この"ぎんぽう"。ものの本によると「銀宝」とも「ぎんぽ」とも言う。体長20~30センチ。説明文には「全国で獲れるが、食用とするのは主に関東。かつては江戸前の天ぷらとして欠かせないものだったが、最近はめっきり減少した。外見からは想像のつかないさっぱりした味で、鮮度の高いものは天ぷらに非常に美味」とあった。

 林田さんの父は刀剣の鑑定家。林田さんが大学を出てすぐ、50歳の若さで亡くなったが、曲がったことは大嫌いという厳しさの半面、ケタ違いの粋な「明治の遊び人」だった。「オヤジは子孫に美田を残さず、と言って美味いものを尽くして死んだが、ボクもそうしたい。"ぎんぽう"を食べると、たまらなくオヤジに会いたくなるんです」。

  はてさて、わがごはん亭としては、美食家がかくもうなる"ぎんぽう"とやらのご尊顔を拝してみたいもの。「今度一緒に行こう」という誘いが待ちきれず、林田さんごひいきの都内の店をのぞいてみた。この道50年の主人は「あれはさばくのが結構難しくて職人泣かせ。最近は築地でも知らない若い衆がいるし、第一めったに手に入らなくなって・・・」と申し訳なさそうに言った。

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