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あゝ思い出ごはん

誰の胸にもある忘れられない食事の思い出。
一つの料理とともに人生の大切な場面が蘇る。
あなたの思い出の一品と物語はなんですか?

2007年11月12日 19:53 | 旅ごはん

ナイフで世界を駆け巡る

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「飲む、打つ、買う」は昔の男の三大道楽.。現代はとなると、万年筆、時計、オーディオ、釣り、鞄、鉄道模型、車、など多種多様で枚挙に暇がない。東京台東区の老舗岡安鋼材社長、岡安一男さん(写真)の場合は、カスタムナイフ(手作りナイフ)とカメラと飛行機。とりわけ、ビジネスも兼ねたナイフは日本を代表するディラーとして毎年、世界中のナイフショーを駆け巡っている。余裕ある団塊の世代。旨いものも食べつくしているグルメでないわけがない。

☆カスタムナイフ、ライカ、DC8

 ナイフには、工場で大量生産される「ファクトリーナイフ」と一本、一本丁寧に手作りされる「カスタムナイフ」がある。カスタムナイフの神様と言われるアメリカのR.W.ラブレスさんの作品は1本400万円もするという。

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(ラブレスの逸品、ニューファイティングナイフ。78歳のラブレスは、今後もう作らないという)

 岡安さんは、そのラブレスさんと30年の親交があり、日本のカスタムナイフのメーカー、ショップ、コレクターで作る「ジャパン・ナイフ・ギルド」(JKG)の会長も務めた。毎年6月、映画「風とともに去りぬ」の舞台となった米国アトランタ(ジョージア州)で開かれる世界一のナイフショー、10月、パリで開かれるヨーロッパ最大のナイフショーなど、世界中を飛び回っている。

 カメラ歴も30余年。ドイツの高級カメラ「ライカ」マニアで、ボディ25台と21ミリから135ミリまでのすべてのレンズを所有、アナログ名機の粋を楽しむ。飛行機は航空ファンで作る「エアライナークラブ」の元関東支部長。"空の貴婦人"と言われた往年の名ジェット旅客機、日航DC-8の引退時に「さよならメモリアルツアー」を企画、チャーター便を仕立てて香港までのラストフライトを楽しんだ。

 JR山手線の御徒町駅近くにある自社ビルのショールームには、世界有数の品揃えのナイフとジャンボ機の本物の座席や模型飛行機がぎっしりと展示されていて、さながら男の隠れ家・趣味の城。日本旅行作家協会(兼高かおる会長)所属の旅行作家、国際ジャーナリスト会議理事など多彩な肩書きも持つ。

 実家は、祖父の代から刃物用の鋼材商。小学生時代、富士山麓で開かれたボーイスカウトの世界ジャンボリー大会に参加したとき、米英から来たスカウトが持っていたキャンピングナイフの素晴らしさに魅せられたのが、こだわり人生の出発点だった。

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(ナイフショーに出品されたナイフの数々)

☆ホテルのトイレで飯ごう炊さん

 さて、この三代目社長の第一の「思い出ごはん」は、1ドル360円時代の高校2年生の夏休み、日本キャンピング連盟主催のヨーロッパ研修旅行(2週間)に参加したときのこと。南周りのDC8機でギリシャ、ドイツを経てスイスのホテルへ着いたとき、山岳部の一人が「チーズもパンも食べ飽きた。米を持ってきたからメシを炊こう」と言い出した。

 タイル張りのトイレ兼バスルームにこもり、固形燃料に火をつけ、予て持参の飯ごうで炊き上げた。立ち上るごはんの匂いがホテル中に流れたが、なにかまうものか!梅干と海苔、鰯の缶詰と一緒に食べた白いごはんは、世の中にこんなうまいものがあったか、と思うほど美味だった。

 第二の思い出は、少しさかのぼった昭和30年代の初め、母の実家の千葉県浦安で過ごした小学生時代。東京湾の埋め立てで沿岸きっての近代都市に変貌した浦安は、当時はまだひなびた漁師町。山本周五郎の「あおべか物語」に出てくる海苔や貝類を一人で取る「べか舟」がたくさん浮かんでいた。

 半農半漁の祖父たちが焼玉エンジンで操る舟で沖合いに出、はぜ釣りや潮干狩りをして遊んだ。潮風に吹かれながら、獲ったばかりのはぜの天ぷらと一緒に食べたおにぎりがこれまた美味だったが、出発前、いっぱい利かせて握ったはずの塩味が、海の上ではなぜかきれいさっぱり消えていたのを覚えている。 

 恵まれた環境を生かしながら、新分野にも積極的に挑んだ経営者人生。様々なビジネスシーンや幅広い人脈との付き合いで豪華な食事は堪能した。パリ・モンパルナスの行きつけのプラスカフェは、何時顔を出してもサンテミリオンのワイン2本を出してくれる。ミシュラン三つ星の「すきやばし次郎」、同一つ星の「銀座久兵衛」など数々の高級寿司店での食べ歩き、帝国ホテルからフランス料理を取り寄せた知人宅での超高級ワイン「ロマネコンティ」パーティも楽しかった。

 だが、やっぱり記憶に残るのは炊き立ての白いごはん。
 「そうそう、アラスカのナイフショーの前にアンカレッジで作家の開高健さんの釣り仲間でもあった写真家の青柳陽一さんと出会い、青柳さんが作った味噌汁とおしんこ付きの白メシをご馳走になったことがあった。あのメシもうまかったなあ」

 食べ物は、やっぱり一緒に食べた相手と環境。日本人に生まれてよかったと思う瞬間である。

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