HOME > あゝ思い出ごはん > 夏目雅子の思い出ごはん 「タコのうす造り」
誰の胸にもある忘れられない食事の思い出。
一つの料理とともに人生の大切な場面が蘇る。
あなたの思い出の一品と物語はなんですか?
2007年9月10日 13:42 | まぜまぜごはん

あの夏目雅子がまた帰って来る。
2007年9月11日はその23回忌。そしてこの16日、その生涯を綴った初めてのテレビドラマ『ひまわり~夏目雅子27年の生涯と母の愛~』(TBS系)が放送される。3年前、ふとしたことから俳人としての夏目雅子を知り、その奔放な人生を本にした私は、急に思い立って、夏目雅子が「鎌倉のお父さん、お母さん」と慕っていた夫婦の経営する小さな寿司屋を訪ねた。
☆鎌倉・江ノ電・由比ヶ浜駅徒歩3分
江ノ電・由比ヶ浜駅から閑静な住宅街の中を歩いて3分。「鎌倉文学館」の入り口交差点にある「小花寿司」は暖簾も店の佇まいもそのままだった。親方の三倉健次さん、女将の秀子さん(写真、手前は「タコのうす造り」)夫妻も変わらず元気だった。
「月日が経つのはホントに早いですねえ」
赤い土壁に作家、伊集院静さんのエッセイの書や色紙がかかる小上がりにお茶を運んで来た秀子さんは感慨深げにこう言った。
開業したのは31年前。その半年目、近くにあった「逗子なぎさホテル」を定宿にしていた伊集院さんがふらりとやってきたのが始まり。大学や高校で野球選手だった伊集院さんと親方は、文学、将棋、競馬などの趣味も同じとあって意気投合。伊集院さんは毎晩のように通った。さらに半年後の開店1周年のころ、伊集院さんが連れてきたのが夏目雅子だった。
「最初は気位が高そうで"やっぱり女優さんだな"という印象。でもすぐに打ち解けた。もともとよく気のつく子で、店が忙しいときは洗い物などよく手伝ってくれました」
当時の2人はまだ売れていない物書きと女優の卵。雅子は伊集院さんのことを「イーさん」と呼んでいた。雅子はとても純粋で、あるとき「イーさんの理想だから私、割烹着の似合う女になるんだ」と言ったかと思えば、「イーさんが他の女性と親しく話してた」と嫉妬してみせたり。夫婦の前では地をさらけ出してよく喧嘩もした。紆余曲折を経て2人が結婚したとき、親方夫妻が2人の強い依頼で仲人を務めたのは自然のなり行き。女将が探した2人の新居もすぐ近くだった。

☆俳人・夏目雅子
私は10年来連載を続けている俳句雑誌のコラムで取り上げたのがきっかけで夏目雅子の俳句とその人生を追跡取材して『優日雅―夏目雅子ふたたび』(実業之日本社刊=写真)を上梓した。
27年という短い生涯で遺した俳句はわずか34句。私の好きな句は
時雨てよ足元が歪むほどに
よほどつらいことがあったのだろう。「時雨」(しぐれ)に向かって自分の足元が歪(ゆが)むほどにと望んでいる。多くが自由律で、俳壇の重鎮、金子兜太さんをして「こんなに奔放で、情熱的な俳句を作る人に私は出会ったことがない」と言わしめた。
「夏目雅子は外見にもまして内面の魅力あふれる女性だった。野獣のような気性の激しさに驚き、女神のような心根の優しさに涙した。多くのエピソードの中で一番驚嘆し感動したのは、元マネージャー、内藤陽子さんが明かしてくれた『雅子はいつも現場の下働きの人たちの名前を一人一人覚え、声をかけていた』という小さな話だった。この気配り、この心映えのよさ。一般社会にも通じるこの話には、おそらく、内心忸怩たる思いでうつむいてしまう人が多いに違いない」
こんな「あとがき」を書いたことが懐かしく思い出される。
☆葉山沖で獲れる地ダコ
あのとき、いろいろ語ってくれた女将が今また目の前にいる。
そういえば、夏目雅子の好物は「タコのうす造り」でしたね。
「ええ。でも、もともと寿司が大好き。毎日食べても飽きない、って言うくらい。ほかに赤貝の酢の物などさっぱりしたものが好きでした」
タコはどこで獲れたものですか?
「近くの葉山沖(相模湾)の地ダコです。ウチは30年来付き合っている地元の漁師さんが毎朝、獲れたての地魚を運んでくれます」
やわらかくしたり、旨みを逃さないために、大根の輪切り、塩と醤油を少々を入れて湯がいて下ごしらえ。粗塩とスダチが添えられたそのうす切りを肴に夏目雅子は、灘の生一本「白鹿」をすいすいと飲んだ。並みの男では、太刀打ちできないほどの酒豪だったという。
結婚したのが8月。半年後の翌年2月、舞台出演中に倒れた。「這ってでも出る」という願いもむなしく入院、病名は急性骨髄性白血病。9月11日に永眠した。発病以来わずか7ヶ月だった。
「9・11は、世間ではアメリカの同時多発テロの日ですが、私たちにとっては雅子ちゃんの命日。絶対に忘れることはありません」
「ウチの近くには鎌倉最古の神社といわれる甘縄神明神社があり、御輿がたくさん出るにぎやかな秋祭りを雅子ちゃんと一緒に見物しました。毎年9月になって太鼓の音が聞こえてくると雅子ちゃんのことを思い出します」
永遠の恋人・夏目雅子は、もし存命なら、今年12月17日には50歳の誕生日を迎えるはずだった。
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